病院にタクシー突入で3人死亡【福岡】 過失の有無は?

 12月3日午後5時ころ、福岡市博多区大博町の病院にタクシーが突入し、院内に居合わせた人と衝突、3人が死亡し、7人が負傷したと報じられました。

 亡くなった方のご冥福と負傷者のみなさまのご快復を心からお祈りいたします。

 さて、タクシーの運転手は、「ブレーキがきかず、エンジンブレーキもきかなかった」と説明しているようです。
 
 フットブレーキはともかく、エンジンブレーキもきかなくなるということが、エンジン停止していない状態で構造上あり得るのか、当ブログには分かりませんが、そういうこともあると仮定して、このような場合、誰が刑事責任を負うことになるのでしょうか。

過失運転致死罪の本質・運転者の過失


 過失運転致死傷罪とは、自動車を運転する際に必要な注意義務を怠ったことによって人を死傷させてしまう犯罪です。

 成立するためには、まず「過失」の存在が必要です。

 「過失」とは、注意義務を怠ったという意味で、その前提には「注意義務」があるわけです。

 では、注意義務とは何でしょうか。

 信号機の信号に従う義務ですとか、最高速度を順守する義務など運転中の注意義務もありますし、運行前に各種機器が正常に機能するか点検する義務、日ごろ整備する義務、体調が悪ければ運転を差し控える義務などのように、運転前にも注意義務はあります。

 注意義務とは、その行為をする人に通常要求される義務で、必ずしも法律に列挙された義務だけではありません。

◯ ブレーキ故障しても運転者には過失がある場合がある
 今回、フットブレーキもエンジンブレーキもきかなくなっていたことが事実であったとしても、法面に乗り上げたり、側壁に接触してその摩擦によって速度を減速したり、ニュートラルにシフトしてエンジン動力を駆動輪に伝達させないような措置を講じたりすることができる時間的余裕があったとすれば、これらの措置を講じないまま病院に突入すれば、たとえブレーキ故障の点に過失がなかったとしても、注意義務違反は指摘できます。

 また、そもそも以前からブレーキの調子が悪いことを体感していたとしたら、そのような自動車は修理しないで運転してはいけませんから、やはり過失は認められます。

 体感はしていなかったとしても、通常求められる点検を怠っていた場合、仮に点検をしていれば故障を早期に発見することができた場合には、やはり過失は認められます。

◯ 運転者の過失まとめ
 たとえブレーキの故障が突発的なものであっても、衝突までに時間的な余裕があり、その間に何か措置を講じられたのに講じなかったとすれば、そのような措置を講じなかった点に過失があります。

 運行前点検その他の整備をしていれば発見できた故障であったとしたら、運行前点検をせず、又は不十分であった点に過失があります。

 逆に、突発的なブレーキ故障又は原始的なブレーキ異常で、異変後直ちに衝突しており、運行前には発見できない瑕疵だったということであれば、運転者には故意も過失も認められませんから、犯罪は不成立ということになります。

運転者以外の者の過失


 運転者に過失がなかった場合、あるいは運転者に過失はあったとしても、他にも注意義務をつくすべき人たちはいます。

1 整備に従事した者
 本件自動車を整備した者は、その整備が不十分であったり、あるいは不適切であったために、ブレーキの本来の性能が発揮できなくさせていた場合には、そのような整備をした点に過失が認められます。

 この場合、整備士は自動車を運転していませんから、過失運転致死傷罪ではなく刑法の「業務上過失致死傷」が成立する余地があります。

 この責任は、運転者に犯罪が成立しなかった場合の補充責任ではありませんから、運転者に過失があり有罪となる場合であっても、同時に成立し得るものです。

 つまり、運転者の過失と整備士の過失が相まって、被害者を死傷させたという構図になるわけです。

2 製造メーカー
 そもそもブレーキが突然きかなくなるような原始的瑕疵のあるものであった場合には、それを製造販売したメーカーの責任となります。

 これも「業務上過失致死傷」事件で、「三菱ふそう事件」がその例です。

先入観は禁物ですが・・・


 ブレーキは、自動車の最も重要な機能です。製造メーカーも整備士も、そのことはよく知っています。

 動かなくなってしまう故障であれば、それ以上の損失はありませんが、止まらなくなってしまう故障は命取りになります。

 ブレーキペダルを踏んだのにブレーキがきかなかったという説明は、裏付けとなる証拠がなければ、裁判官に信用されないでしょう。エンジンブレーキもきかなかったというのも、慎重に判断されるべきところです。

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